3.1 実路上とシャシダイナモ上の接地面の違いがタイヤ温度に与える影響
1.試験条件、試験設備とタイヤ温度との関係
 実路での転がり抵抗を測定する際のタイヤ周辺を流れる気流の条件を、シャシダイナモメータ上の試験でも再現するのが理想ですが、室内試験にも特有の問題があります。そこでシャシダイナモ上のタイヤに対する冷却風の当たり方の違いや、それが転がり抵抗に及ぼす影響等について実験調査しました。その結果を基に、タイヤへの冷却風の当て方の要件や配慮事項に関する規格化の可能性を検討しました。
 シャシダイナモメータ試験では、実走行時の向かい風の条件を模擬すべく車速比例型の冷却ファンの風を試験車に当てるようになっています。ただし室内試験では床面が試験車に対して動くことがないので、たとえ一様な風を前面から試験車に当てたとしても、境界面の条件が実路走行時とは違うので、テストコース上と同等にすることはできません。その理由は、実路走行では車両が実際に移動することで車体との相対風速が発生することと、エンジン熱の一部がこの気流を介してタイヤに伝わることになりますが、シャシダイナモ試験では冷却ファンの吹き出し口のサイズが小さい場合や風量、風速にばらつきがある場合には、車両冷却ファンの風と実走行時の向かい風とでは、タイヤ冷却等の影響度がかなり異なってくることが考えられます。
 そこで室内試験におけるタイヤ冷却条件の影響を調べるために,次ページの図1に示す3種類の開口部の条件を冷却ファンに設定して、それぞれの条件で車の前後のタイヤ前面に当る風速を調べてみました。これは、車両冷却ファンによってタイヤに当たる風と、実路上を走行した時にタイヤ前面に当たる風がどの程度異なっているかを調べることが目的です。
 

3.2 路上走行抵抗時のタイヤ冷却条件をシャシダイナモ上で再現する方法の検討

試験路での惰行走行で試験車の走行抵抗を計測する場合,気温や日射量,自然風の条件などによる路面温度の違いによってタイヤ温度が変化し、結果的に転がり抵抗の測定結果に差が生じる可能性があります。同じことは、路面よりも熱伝導率が高い金属ローラ上でタイヤを回転させた時にも生じうるといえます。そこで,自動車技術会シャシダイナモ試験法分科会では,シャシダイナモメータ上で転がり抵抗を測定する方法を規格化するため、タイヤ設置面の違いがタイヤ温度に及ぼす影響の相違について考察しました。
 またタイヤ接地面の温度条件違いが,タイヤの転がり抵抗に及ぼす影響度を調べることにしました。そのためタイヤ周辺の外気温度とローラの温度を独立に制御できるタイヤ単体シャシダイナモメータ並びに環境シャシダイナモメータを使って,接地面の温度条件の影響を調べる実験調査を行いました。

既存のシャシダイナモメータ試験法では,ローラ温度に対する基準や補正方法等の規定は特にありません。そこでテストコース上の惰行試験で外気温等を測定し標準大気状態(20 ℃,1気圧、無風)の状態に換算補正する規定と同じように、シャシダイナモ上でのローラ温度の違いを補正する方法についても検討しました。その前段階として,自動車メーカなどで使用されているシャシダイナモ設備のローラ温度の実態を調べました。
 今回の規格では,ローラ温度範囲の基準を定めておき,この範囲を逸脱した場合には、測定された転がり抵抗の値をローラ温度で補正する方法を検討しました。ちなみに従来の路上試験法で使われている温度補正係数は,大気温度と路面温度の関係性を加味した上で統計的に割り出された補正係数と考えられるので、路上測定での補正方法、補正係数をそのまま室内試験に準用するのは、ローラ温度違いの補正には使えないとの判断がありました。

シャシダイナモメータ試験では,車両冷却ファンを使って走行車速と同じ風速の冷却風を試験車前面に当てることになっています。世界統一基準のGTR15では,車両冷却ファン吹き出し口の最小サイズが規定されていますが,この条件を満たす程度の小さなサイズの開口部のファンでは,四輪のタイヤにくまなく冷却風を当てることは難しいといえます。また、試験中のタイヤ冷却条件に関しても特に定められた規定がないので,タイヤの温度上昇を抑制するための規定にはなっていません。さらにエンジンや排気系統の熱が冷却ファンからの気流によってタイヤに伝えられることで、タイヤの温度上昇の程度が異なってくることも、室内試験による転がり抵抗測定の変動要因になる可能性が考えられます。

テストコース上の惰行試験では、走行風(向かい風)が一様に車体に作用するのに対して,台上試験では試験設備の条件次第で実路とは異なる温度条件でタイヤが回転する場合が考えられます。つまり台上試験で転がり抵抗を測定しても、タイヤ作動条件の違いで実路走行時とは異なる転がり抵抗が計測される可能性がある訳です。そこで室内試験では、できるだけ実路走行時に近い気流がタイヤ周辺に当たるようにする条件を作ることが望まれます。

2. 試験時のタイヤ冷却の重要性

 シャシダイナモメータ設備では、試験室に設置された専用の空調設備によって室内温度がほぼ一定に保たれているので、路上試験に比べれば転がり抵抗測定に対する環境条件の変動要因はずっと小さくなります。一方、タイヤを載せて回転するローラは、試験室からはほぼ閉ざされた形の地下ピットの内部に設置され、そこには電気動力計等の回転機器等も設置されていて温度上昇しやすいので、ローラの温度は、空調された試験室の温度(約20℃)よりもピット内部の温度条件の影響を受けやすいといえます。
 ローラ上のタイヤは、タイヤの周辺を流れる気流によって冷やされることもあれば、エンジンや排気系の熱を受けた気流に触れることで温められることもあり、風の当たり方によってタイヤの温度条件が左右されやすいといえます。さらに車両冷却ファンの吹き出し口の大きさや形状、床面高さによっても、前後輪の各タイヤに対する風の当たり方が大きく変わってきます。つまり台上試験車のタイヤ周りの気流の状態によって、タイヤの温度条件が路上走行時とはまったく異なることが予想されます。
 ローラ上を走行している時のタイヤは、回転に伴う発熱と温度上昇、金属ローラ面への放熱、冷却風がもたらす周辺気流との熱交換等の様々な条件によってタイヤ温度が変化します。これらの影響があるので、シャシダイナモメータを使って転がり抵抗を測定した結果が、テストコースで測定した結果とは違ってくる可能性が考えられます。

 こうした問題への対処方法としては、まず試験車の前面サイズと同等かそれ以上の開口部を有する車両冷却ファンを用いること、ローラ等が設置されるピット室内の温度を試験室とは独立にコントロールできるピット内専用の空調設備を用意してローラ温度が試験室温度と大きく離れないようにする対策が有効と考えられます。ただしこれらは予算面の制約は大きいと思われます。そこで次善の策としては、タイヤ専用の冷却ファンを設けて、その風速や風量を適切にコントロールする設備を設けること、ローラ温度を検出した上でローラ材質に応じた適切なローラ温度補正を行う方法が有効と考えられます。(これについては後述) 

 タイヤのゴム部材は、温度が上昇するほど転がり抵抗が低下するという性質があります。(参照ページへ) タイヤ部材は、走行中に変形と復元を繰り返すことによる損失が生じることで、自身が発熱し温度上昇します。一方、タイヤの温度は周辺を流れる気流やトレッド面が接する路面あるいはローラ面との間の熱交換つまり受放熱の状態によっても変化してきます。つまり路上走行時の走行風(向かい風)またはシャシダイナモ試験での車両冷却ファンの風のタイヤへの当たり方や、アスファルト路面とローラ面の材質違いによって影響されます。さらにタイヤ近くにある高温の熱源(エンジン、排気管、触媒装置等)からの輻射熱、対流熱等によって温度上昇することがあります。これらは走行中のタイヤ温度を変化させる要因となります。
 こうしたことから、タイヤ温度が試験時の条件によって変わってくると、同じ惰行法によってコース上やシャシダイナモ上でころがり抵抗を測定しても、結果に差が出ることがあります。

 シャシダイナモメータ上で転がり抵抗を測定する際には、路上走行時と同じ気流条件を車両に与えることが望ましいといえます。そのためには、車両冷却ファンよってできるだけ路上走行状態に近い風の状態を再現するのが理想です。ただそのためには、冷却ファンの吹き出し口のサイズが車両の前面投影面積よりも大きなものが必要となりますが、設備設置費用等の問題があって、実走行時と同等な条件を室内試験で作り出すことは、なかなか困難といえます。


 

3.シャシダイナモメータ上でのタイヤ転がり抵抗に影響する温度条件の影響分析と補正の必要性

 

 


 

第2部 タイヤの温度条件違いが転がり抵抗測定に及ぼす影響とその補正方法


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技術解説ーシャシダイナモメータによる車両評価(Part2)ーシャシダイナモ続編版
       
   4WDシャシダイナモメータを用いた台上での試験車転がり抵抗測定方法ー6
                                        シャシダイナモ試験をJATAに委託するには
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